秋の 後の祭り
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


秋というのはいろいろな意味合いから風情のある季節で、
まずは からりと乾いた気候が嬉しい。
殺す気かという酷暑の後なぞ特に格別で、
積極的に体を動かす気にもなれるというもの、
各地への行楽にイベントにと出掛けたくなるのもそんなためかも。
行楽といやあ、木々が色づき山々が錦をまとう時期でもあるし、
忘れちゃいけない、収穫の季節でもあり、
旬の色々が満ちあふれ、
高い空の下、ほぼ1年を掛けたお世話の結実に喜びつつ、
豊饒を感謝するためが起源だろう、秋のお祭りも多々あって。

 「これから冬だから用心しなよっていうのが起源の、
  歳時やお祭りもあるのでしょうね。」

 「ハロウィンも、
  近年じゃあ どっちかといやそんな傾向が見受けられますよね。」

 「カボチャに ジンジャークッキーだしね。」

これからどんどん寒くなるから、
風邪引くなよ、栄養とりなよと呼びかけてるようなもの。

 「七五三…。」
 「ああ そうそう、それもあったねぇ。」

昔は衛生的な問題とか滋養不足などなどから、
小さい子を育てるのもなかなか大変で。
それでのこと、地元の氏神様に感謝をし、
ここまで大きくなりましたというお祝いをしたのが始まりで。

 「今の少子化の原因なんて、思えば贅沢なもんかもね。」

ひもじさから死なせてしまった、
そんな哀しいお話が当たり前のように聞かれた世情も、
実は肌身に迫るものとして“覚えておいで”のお嬢様がた。

 とはいえ

だから早く結婚したいとか、
だから今抱えてる恋を成就させたいとか
そうと繋いで考えている訳じゃあないのは、それこそ今時なのかもで。

 「それは それですよぉvv」
 「そうそうvv」

 そりゃあサ、
 少女漫画みたいに ある日いきなりゴロさんが
 “それがしと一緒に逃げてくれ”とか言い出して
 何物かからの追撃を逃れつつ、
 手に手を取って逃避行とかって運びを
 ロマンチックに思ってるワケじゃありませんが。

 「…ヘイさん、それって少女漫画と違う。」
 「ロマンチックでも…。」

ないと思うぞと、
久蔵さんからもじっとり温いものを見る眸で見つめられ。
おやこれは心外なと、
片方だけ開眼しちゃった、赤い髪に猫目のお嬢さん。

 「えー? サスペンスな展開の中でこそ、
  眞の愛が深まるって言うじゃないですか。」

 「パニックアクション映画の観すぎだ、ヘイさんは。」
 「さすがアメリカ。」

時折吹く風に、足元のあちこち、
通路の隅っこなぞへ吹きだまっていた落ち葉がかささと踊り、
赤く色づいていたケヤキなどからは
はらりはらりと新しいのが舞い落ちてもいて。
ああこれからは
掃いても掃いてもキリがないシーズンの到来なんだと思い知る。
とはいえ、彼女らがそれぞれの手に手に持った
庭用らしいホウキを使おうとしないのは、
ここのお当番ではないからか、それとも
もっと奥向きから始めたほうが効率的だと知っていてのことか。

 「そんなこと言うけど、
  シチさんだったら、
  どんなシチュエーションを妄想するんですか?」

 「えー? 妄想って…。////////」

 あ、赤くなったvv
 ………vv(頷、頷)

 久蔵殿まで何ですよもうっ。////////

そんなこんなと他愛ないことをお喋りしつつ、
晩秋の陽が照らす中、
学園の校庭の一角を 仲良く歩いておいでの三華様がたで。
お揃いの濃色基調のセーラー服をまとった愛らしい痩躯へ、
強い風が不意打ちで襲い来れば、
ひゃああと可愛らしく悲鳴を上げ、身を寄せあったりもしつつ、
丁寧に手入れされている石畳の道をどんどん進んで進んで、さて。

 「久蔵殿だって、
  政略結婚なんてお膳立てされたら蹴っ飛ばすクチでしょう?」

 「??」

平八の質問へキョトンとする紅ばら様。
肩先までという長さのエアリーな金髪を、
またもや吹き来た風にもしゃりと掻き乱され、
あらあらと七郎次に撫でてもらって あっと我に返るまで、
平八から何を言われたのかの意味が、てんで理解出来なんだらしく。

 「ヘイさん、無駄だよ。
  第一、久蔵殿は既にそういう系統のお見合いも経験してる身だ。」

 「あ、そうでしたね。」

親御はどうやら彼女の自由意志を尊重してくれそうな人たちだけれど、
とはいえ、社交の世界にもそれなり顔が広い関係上、
そろそろいかがなんて周辺からお声がかかるの、
そうそう無下にも振り払えないらしいとあって。
お義理というの前提でのお見合い、
既に4、5回は経験済みというヒサコ様だから
ほんに 人は見かけによらない。

 「ただ、アタシが気に掛かっているのは、
  榊センセ自身の自覚云々もだけれど、
  親御様がたも、もしかしてお兄様扱いしてないかなってのがサ。」

 「あ、それはあり得そうで怖いなぁ。」

久蔵殿が、相変わらずの鉄面皮、もとえ、
クールビューティな風情の下でほのかな恋心を抱いておいでの
榊兵庫せんせえは、幼いころからの主治医でもあった関係上、
もしかして親御からでさえ、
そういう対象からは外されていまいかというのが
杞憂と言い切れなくもないのが、
その恋 応援し隊からすりゃ気がかりで。(なんだそりゃ)

 “つか、久蔵殿の親御と祖父様が テッサイさんと麿様なだけに、
  却って読めないというか微妙だというか…。”

あはは、そうだったねぇw(おいおい)

 「……。」
 「お。」
 「あら。」

そんなこんなと、
彼女らの間にだけ通じるお話にまで至った恋バナが、
ふっと唐突に途切れたのは、
目的地が近づいて来たのにつれ、
それぞれの身のうちへエマージェンシーを伝える何か、
素早く察知したからで。

ここいらの外周は鉄柵が巡らされていて、
その内側には目隠しがわりの木立ち。
そんな樹木の1本へ、安物のか細い脚立を掛けて
枝の上へとおっかなびっくり登っていた人影があり。
その足元を支える顔触れもいるし、
塀の向こうには乗りつけたのだろボックスカーも見えるから、
正味5、6人という一団かと。
随分と校舎からも離れた一角なので、
こちらの学園祭も先日華々しく終わり、授業も始まっている今時分、
誰も通るまいと思ったその不意を衝かれた格好になったらしく、
まずは、凍りついたように全員が固まったのが見て取れて。

 「隠し撮りしたデータ、
  転送されないのがおかしいなと思いましたか?」

ひなげしさんが おっとり微笑って話しかければ、
取り繕いのつもりか
薄ら笑いを浮かべかかってた面々がその顔をそのまま引きつらせ、

 「そんなものの稼働を許すはずがないでしょう。」

ウチの警備システムを舐めてもらっちゃ困りますと、
アイドルの自己紹介もかくやという、
小首かっくり付きで“はにゃんvv”と微笑って言うものだから、

 「え?」
 「えっとぉ?」

彼らの目的の現状と、目の前に現れた存在の正体と耳からの情報と、
色んな事態が一気に他方向からなだれ込み、
瞬発が利かぬか、ますます混乱している相手へと。

 「様子見に来るって読んでて正解。」

白くて愛らしい手に持っていたホウキの柄、
トントンッと空いてたもう一方の手のひらへ当てるようにして見せれば、
どういう仕掛けか手品のように、
その柄の陰からコロンと出て来たのが、
スライド式だろうステンレス・スティックが1本。
そんな奇跡をご披露してくれた、
つややかなストレートの金髪の、
前髪はカチューシャで押さえ、
残りは肩まで降ろした いかにも清楚な美人さんの傍らでは。
こちらはけぶるようなくせっ毛の金髪を、
きりりと冴えた鋭角なお顔へロマンチックな相性で添わせた、
クールビューティさんが、
ひゅんっと腕を振り抜いて、その手へ特殊警棒を滑り出させており。

 「大掃除。」
 「そうですよね、そういう日程までは知らなんだようで。」

こちらの女学園の秋の名物、
様々な演目や出し物でにぎわう学園祭が、
今年は 連休最終の文化の日から3日間かけて催され。

 「昨日は代休で、今日は大掃除の日ですから、
  授業はありませんし、
  こういう奥まったところにも、
  放課後でもないのに入り込む場合もあるワケで。」

 「う…っ。」

何にかますますとお顔が引きつる彼らへ、

 「大方、昨日が後片付けの日だとでも
  思い込んでいたのでしょうね。」

それで じりじりしつつも回収は今日へ日延べしたんでしょうけれど、

 「ずっと動画を受信出来なくて、さぞかしご心配でしたでしょうが、
  部室前の通路を延々と監視して、
  着替えの途中のまま駆け出す子やらを
  こっそり録画していたのは許せません。」

実は早い時期に設置自体は感づいていたが、
外してもまた乗り込まれるだけだろと危ぶんだひなげしさん。
そこで、まずは同じ風景の中、
演劇関係の舞台設備をそこで組み立てるよう取り計らって。

 『だって、ここって部室から近いでしょ?』

今季はバレー部がインターハイ進出したこともあり、
球技部が合同で寸劇を計画していたので、それへと誘導を掛け、
八百萬屋からの内緒の差し入れもこっそり運び入れと、
この場所への利便性をさりげなく推した上で、
その作業風景を別に録画し。
日にちが迫って来て、お嬢様がたが やややんちゃになって来る頃合い、
女性ばかりの環境だと油断して脇が甘くなり、
スカートを上げつつ部室から飛び出したり、
練習着を脱ぎつつ部室へ飛び込んだりが頻繁になる、
本番当日 数日前あたりから、
先に録画してあった画像を盗撮カメラにさりげなく受像させて誤魔化した。
そのあとは、どういうアクシデントか不具合か、
何も転送しなくなるよに、やはり外から操作したまでのこと。
気になって様子を調べに来た気配はなかったが、
学園祭が終わったとあって、ブツを回収しに来るだろうと見越し。
この周縁のお掃除は自分たちがと引き受けた、
美麗な風貌を裏切って、実は ちょいと毛色が異なるお嬢様がた、

 「さあ、大掃除に取り掛かりましょうか。」

じゃきりと それぞれが得物を構えたその姿の、まあまあ凛々しかったこと。
楚々とした所作の映える、大人しめのスカート丈なのひるがえし、
長く伸ばしたステンレス製の槍もどきを ひゅんっとぶん回す
鬼百合、もとえ、白百合様と、

 「…っ。」

ぐんっと長い御々脚を折り、その場でその痩躯を一瞬 深々と沈めてから、
次の合には、姿を見失うほどの素早さ、あっと言う間に飛び出して来。
多少はあった間合いを瞬時に詰めると、
鼻先を形のある疾風が通り過ぎたと思わすほどの超ド迫力、
警棒の切っ先をまずは空振って見せて威嚇する、
紅ばら様こと、ヒサコ様だったりし。

 「ひえぇ…っ。」
 「やば…、痛ってぇ〜っ。」
 「わあ、待てよ。置いてくなっ!」

獲物を追う狩猟犬も顔負けの、素晴らしい瞬発力で飛び出したのは、
大きな騒ぎにせず、手早く片付けたかったからで。
素人でもただならない気迫を感じとり、
後じさりの途中でたたらを踏んで
無様に転ぶ始末…という悲惨な様相を呈す賊らが気の毒なほど。
ロマンチックもへったくれもない、
こんな格闘を手も無くこなすことのほうが、よほど問題じゃあなかろうか。
そんな晩秋の木立ちの中、
何も知らない聞こえないと、
スズカケやケヤキ、アカシアの色づいた葉が、
それは静かにはらはら舞い散っていたお庭だったそうな。





    〜Fine〜  14.11.07.


  *立冬です、今日から冬です。
   陽なたは暖かいですが、朝晩の冷え込みは結構なもので。
   北のほうの皆様は、
   もっと寒いんだろうなぁとお察し申し上げております。
   風邪にはご用心を。

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